腎臓は生体における水、電解質等の恒常性を維持するという重要な役割を担っているが、それは糸球体濾過、尿細管での再吸収ならびに分泌の総合的作用により調節されている。とくに尿細管での各種電解質輸送には尿細管細胞の膜電位がその駆動力として重要であり、その膜電位の形成ならびに調節はイオンチャネル機能に大きく依存している。 本年度の研究ではとくに糸球体濾液の約80%を再吸収する近位尿細管機能の調節メカニズムについて、膜電位形成に重要な尿細管基底側膜に存在するK^+チャネルの分子制御機構を明らかにし、近位尿細管全体の機能調節について検討した。まず、培養オポッサム腎近位尿細管細胞を用い、膜電位形式に重要であると考えられた約90pSのコンダクタンスを有する内向き整流性でATP依存性を有するK^+チャネルの調節機序について実験を行なった。その結果、このチャネルの活性はcAMP依性キナーゼ(Aキナーゼ)による蛋白燐酸化で上昇し、Ca^<2+>依存性Cキナーゼにより低下することが解った。このことより、近位尿細管機能はcAMPや細胞内Ca^<2+>濃度を変化させる因子によて調節されていることが示唆された。さらに最近では、心房性Na^+利尿ペプチドがこのチャネル活性を上昇させ、それがcGMP依性キナーゼ(Gキナーゼ)による蛋白燐酸化の結果であることも明らかになった。また、近位尿細管の膜電位は細胞内pHの影響を大きく受けるが、食用蛙近位尿細管細胞を用いた実験にて、pH変化にともなう膜電位変化がATP依存性を示すK^+チャネルがpH感受性を有するためであることも解った。 今後、さらに遠位尿細管のイオンチャネルについても検討し、チャネルの分子制御機構と生体全体における体液調節との関連性を明らかにして行きたい。
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