研究概要 |
内向き整流Kチキネル(IRKチャネル:IRK1-3)は主に,中枢神経細胞,心臓,骨格筋などに分布し静止膜電位の形成と安定化に関与するチャネルとして機能している。また,IRKチャネルと近縁のファミリーであるGIRKチャネル(GIRK1-4)は心臓,膵臓などに主に分布し,G蛋白質を介した受容体刺激によって活性化されるチャネルである。これらの内向き整流Kチャネルがマウスの中枢神経細胞において,どのような状態で存在して機能しているかを明らかにするために,IRK1およびGIRK1の抗体を用いて解析を行なった。 1. マウス大脳粗膜画分のIRK1およびGIRK1の分子量はそれぞれ約83Kと約65Kであった。N-glycosidase Fで処理するとIRK1の分子量には変化が見られなかったが,GIRK1は約58Kにシフトした。脳のIRK1が本来の大きさ(約57K)よりも大きい原因はN-結合型糖鎖の付加のためではなく,O-結合型糖鎖付加による可能性がある。2.マウス大脳粗膜画分からのIRK1とGIRK1の界面活性剤による可溶化を試みた。GmK1は界面活性剤で約40%が可溶化されたが,IRK1はほとんど抽出されなかった。神経細胞のシナプス後膜には,界面活性剤で抽出困難な細胞骨格蛋白質であるPSD-95が局在している。IRK1はIRK3同様,PSD-95に結合する可能性のあることが既に指摘されているが,この結果はこれを支持している。3.上記の結果を踏まえて培養神経細胞において検討を行なった。ラット胎児脳の初代神経細胞培養を行ない,神経細胞粗膜画分を調製後,界面活性剤によるIRK1とGIRK1の抽出を行なった。IRK1もGIRK1も培養神経細胞でよく発現しており,分子量の大きさはマウス脳組織と同じであった。界面活性剤存在下では,上記1.の場合と異なりいずれのチャネルも約70-80%が可溶化された。この結果は,初代培養神経細胞ではシナプス形成が不完全で,それぞれのチャネルが正しく局在できないために生じたと思われる。神経細胞では,IRK1もGIRK1もシナプス形成に関与する細胞骨格蛋白質との相互作用の下に機能していることが示唆される。
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