視交叉上核培養細胞の活動電位同期とペプチドリズム:細胞内振動から生物時計機構へ

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09670065
• 研究機関: 北海道大学
• 研究代表者: 本間 さと 北海道大学, 医学部, 助教授 (20142713)
• キーワード: サーカディアンリズム / 視交叉上核 / 時計遺伝子 / バゾブレッシン / VIP / マルチチャンネル細胞外神経活動記録

研究概要

本年度は哺乳動物の生物時計である視交叉上核における時計遺伝子ClockとBMALlの発現を調べ細胞内振動発現機序を検討すると共に、視交叉上核神経細胞の分散・スライスの2種の培養系を用い細胞間同調に関わる因子を検索し、細胞レベルのリズム発振から個体レベルのリズム発現に至る機序を検討することを目的として研究を行った。
1. 時計遺伝子の発現リズム:in situ hybridization法によりラット脳内のClock,BMAL1発現リズムを調べた結果BMALIには主観的暗期に上昇する明瞭なリズムが、Clockには主観的明期に上昇する低振幅のリズムが検出され、リズム発振におけるBMAL1の重要性が示唆された。光パルスに対し、BMAL1は全位相で僅かな上昇を、Clockは主観的暗期に有意な上昇を示し、前者がパラメトリック後者がノンパラメトリック同調に関わる可能性が示唆された。
2. 細胞内振動間の同期・脱同期と時計機能の分担(スライス培養) :多孔膜上に新生ラット視交叉上核スライスを培養し、視交叉上核の主要ペプチドであるバゾプレッシン(AVP)とVIPのサーカディアン変動を調べた。培養3〜10日の間では、すべて例でほぼ同位相のAVPリズムとスライスにより位相の異なるVIPリズムが検出された。培養2週以降では、AVP,VIP共にリズムが消失したが、免疫組織学的に検索した両神経分布は維持されていた。以上の結果、AVP細胞は出生時に母親に同調したリズムを示し培養下でフリーランすること、VIPリズムは別の振動体に駆動されること、個々の振動細胞間のカップリングが培養期間中に消失することが確認された。
3. シナプス形成と振動共役(分散培養):MED上に分散培養したラット視交叉神経細胞の自発発火リズムを長期間測定し、サーカディアンリズム同期と機能的シナプスの存在を示唆するスパイク間相互相関との関連を調べた。同一ディシュから記録した神経対の発火リズムを解析した結果、両神経ともサーカディアンリズムを示す78対のうち35対ではサーカディアンリズムが同期しており、うち32対の間には興奮性、残り3対には抑制性の結合がみられた。リズムが同期していない43対の間には機能的結合は一例もみられなかった。また殆どの興奮性結合は、シナプス潜時が2m秒以下であった。以上の結果、サーカディアン振動体をもつ個々の神経細胞は、シナプス潜時の短い興奮性結合で同期し、安定した単一周期のリズムを出力すると考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Honma,S: "Light-induced uncoupling of multi-oscillatory circadian system in a diurnal rodent chipmunk,Euramias Asiaticus." Am.J.Physiol.(in press). (1999)
• [文献書誌] Abe,H.: "Functional diversities of two activity components of circadian rhythm in genetical splitting mice (CS strain)." J.comp.Physiol.A,. (in press). (1999)
• [文献書誌] Masubuchi,S.: "Amplitude reduction of plasma melatonin rhythm in association with an internal desynchronization in a subject with non-24 hour sleep-wake syndrome." J.Clin.Neurosci.(in press). (1999)
• [文献書誌] Abe,H.: "Phase-dependent induction by light of rat Clock gene expression in the suprachiasmatic nucleus." Mol.Brain.Res.(in press). (1999)
• [文献書誌] Abe,H.: "Circadian rhythm and light responsiveness of BMAL1 expression,a partner of mammalian clock gene Clock,in the suprachiasmatic nucleus." Neurosci.Lett.258. 93-96 (1999)
• [文献書誌] Honma,S.: "Circadian oscillation of BMAL1,a partner of a mammalian clock gene Clock in rat suprachiasmatic nucleus." Biochem.Biophys.Res.Commun.250. 83-87 (1998)
• [文献書誌] Honma,S: "Circadian period of single suprachiasmatic neurons in rats." Neurosci.Lett.250. 157-160 (1998)
• [文献書誌] Honma,S: "Circadian rhythms of arginine vasopressin and vasoactive intestinal polypeptide do not depend on cytoarchitecture of dispersed cell culture of rat suprachiasmatic nucleus." Neuroscience. 86. 967-976 (1998)
• [文献書誌] Shinohara,K.: "Circadian release of amino acides in the suprachiasmatic nucleus in vitro." Neuroreport. 9. 137-140 (1998)
• [文献書誌] Abe,H.: "CS-mice-a model mouse for dual-oscillator sytem." Circadian Clocks and Entrainment. 47-69 (1998)
• [文献書誌] Honma,K.: "Internal desynchronization in the human circadian rhythms." Circadian Clocks and Entrainment. 101-113 (1998)
• [文献書誌] Honma,K.: "Non-SCN rhythm in the circadian domain" Biological Clocks.Mechanisms and Applications.33-40 (1998)