研究概要 |
本研究は哺乳動物の生物時計である視交叉上核(SCN)における時計遺伝子の発現を調べ細胞内振動発現機序を検討すると共に、SCNの分散・スライスの2種の培養系を用い細胞間同調に関わる因子を検索し、細胞レベルから個体レベルのリズム発現に至る機序の検討を目的として行われた。 1. 時計遺伝子の発現リズム:in situ hybridization法によりラット脳内のClock,BMAL1発現リズムを調べ、主観的暗期に上昇する明瞭なBMAL1リズムと、主観的明期に上昇する低振幅のClockリズムを報告し、リズム発振におけるBMAL1の重要性を示唆した。光パルスに対し、BMAL1は全位相で僅かな上昇を、Clockは主観的暗期に有意な上昇を示し、それぞれパラメトリック、ノンパラメトリック同調に関わる可能性を示唆した。 2. 二振動体と時計機能の分担:多孔膜上に新生ラットSCNスライスを培養し、SCNの主要ペプチドであるバゾプレッシン(AVP)とVIPのサーカディアン変動を調べ、AVP細胞は出生時に母親に同調したリズムを示し培養下でフリーランすること、VIPリズムは別の振動体に駆動されること、個々の振動細胞間のカップリングが培養期間中に消失することが明らかとなった。 3. 細胞間カップリングとべプチドリズム:SCN細胞をマルチ電極ディシュ上(MED)に分散培養し、単一ニューロンからの発射頻度を数ヶ月渡り連続測定し、発火頻度のサーカディアンリズムと各ディッシュの培養液中に放出されるAVP,VIPのリズムを測定した。その結果、殆どのSCN神経細胞が固有のサーカディアン振動体を有すること、単一神経細胞レベルのフリーラン周期は広い範囲に分散し、in vivoでのSCN内の統合機能を示唆すること、ペプチドリズムの消失はリズム停止ではなく、多振動体巻脱同調によることが明らかとなった。 4. シナプス形成と振動共役:MED上に分散培養した視交叉神経細胞のサーカディアンリズム同期と機能的シナプスの存在を示唆するスパイク間相互相関との関連を調べ、サーカディアン振動体をもつ個々の神経細胞は、シナプス潜時の短い興奮性結合で同期することを明らかにした。
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