本研究の目的は、ストレスによる免疫機能修飾機序、特にその脳内機序を解明することである。昨年度に引き続き本年度は以下の4点を明らかにした。 (1)神経活動活性化の指標であるc-Fos蛋白は拘束ストレス(IMB)により、視索前野(POA)、室傍核(PVN)、腹内側核(VMH)、外側視床下部(LH)、視索上核(SON)、視交叉上核(SCN)に発現が認められた。プロスタグランディン(PG)合成酵素阻害剤であるdiclofenacをIMB負荷前に末梢投与しておくと、PVN、VMH、LH、SON、SCNのc-Fosは発現が減少した。PGE_2の側脳室内投与により、POAのc-Fos発現は減少、PVN、VMHでは増加、LHでは変化がなかった。(2)脾臓の除神経を行っておくとIMBによるNK活性の抑制は著明に軽減する。そこで脳内各所を興奮性アミノ酸であるグルタミン酸の微量注入により化学的に刺激して脾臓交感神経活動を観察した結果、PVN、VMHは促進的な、POA、LHは抑制的な影響を脾臓交感神経活動に対して及ぼしていることが判明した。(3)IMBにより脳内に誘導されるサイトカインmRNAを検討すると、視床下部でIFN-α、IL-1β、TNFα、TNFβ、海馬でIL-1β、TNFα、TNFβ、IL-3、IL-6、IL-10のmRNA発現増加が観察された。(4)ストレスによる免疫機能修飾の末梢出力機序として、Th1及びTh2サイトカインmRNAの脾臓内動態を検討すると、IMBによりIL-1β、TNFα、TNFβ等のTh1サイトカインmRNAの脾臓内発現の抑制傾向が観察された。 以上の結果より、IMBによる細胞性免疫機能抑制には、視床下部、特にPVNの活動亢進、視床下部で誘導されるIFNα、IL-1β、脾臓内サイトカイン産生のTH1からTh2へのシフトが関与している可能性が示唆された。
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