生体はNaClの過剰摂取に対して、腎臓を介してNaClを積極的に排泄することにより恒常性を保とうとする。しかし、この適応機構に、神経性と液性因子の関与が考えられるが、まだその両調節系の連関メカニズムは明らかでない。 1) 中枢性ナトリウム/浸透圧受容器を介する食塩負荷に対する腎交感神経(RSNA)応答を自由行動・意識下ラットにおいて調べた。0.3、0.67、1.O M NaCl溶液投与(1μl/min、20分間)により、用量依存的にRSNAは抑制された。この抑制反応には動脈圧受容器と下垂体後葉より分泌されたバゾプレッシン(AVP)が関っていることが、各々圧受容器除神経(SAD)動物、AVPレセプター拮抗剤投与の実験より判明した。さらに興味深いことに、このAVPの作用は動脈圧受容器に依存していることが明らかとなった。この結果は動脈圧受容器→中枢神経系(CNS)の径路において液性(バソプレッシン)調節系と神経(腎交感神経)調節系とが連関しており、食塩負荷環境下での長期的適応に働いていることを示唆している。 2) 次にこの末梢由来のAVPによるRSNAに対する修飾メカニズム、特にCNSを介するメカニズムについて、早期癌遺伝子由来のFos蛋白陽性ニューロンを指標として検討した。高張NaCl溶液の脳室内投与により、脳室周囲器官の終板器官(OVLT)と最後野(AP)、視床下部視索上核(SON)と室傍核(PVN)のFos陽性細胞数が用量依存的に増加した。しかし、脳弓下器官(SFO)では変化が見られなかった。AVPのV_1レセプターアンタゴニストの前投与により、PVNのFos陽性ニューロンは増加し、一方、APのFos陽性ニューロンは減少した。AVPレセプターアンタゴニストの投与自体では血圧は有意な変化を示さなかったので、これらの変化は少くとも圧受容器そのものを介するものでなく、CNS内の未知の径路・機序を介するものであることが示唆された。
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