一般に多数の骨格筋収縮の精密な空間的・時間的制御を必要とする複雑な身体運動パーフォーマンスの熟達は、その構成動作パターンを反復する'トレ-ニング'によって達成されることが経験的に知られているが、この身体運動トレーニングによって生ずる種々の適応的変化のうち特に神経系についての研究は極めて乏しい。かかる高い巧緻性が要求される複雑な身体運動パーフォーマンスの実現には、骨格筋収縮のフィードバック調整系としてのγ運動ニューロンの寄与が不可欠と考えられる。本研究は、γ運動ニューロンが身体運動トレーニングによって影響を受けるか否か、また若し受けるならば如何なるものであるかを調べるため、トレッドミルによる走行トレーニングを一定期間負荷(8-10週)いたWistar系雄ラットのヒラメ筋筋紡錘第一種および第二種終末の筋伸張に対する求心性応答を記録・解析した。ウレタンによる全身麻酔下に椎弓切除術を行い、後根を細分することによりヒラメ筋筋紡錘から単一GiaまたはGII求心性線維を分離・同定、それらの神経インパルス活動を増幅・観察し、一定速度・距離の筋伸張を反復加え、その求心性応答を連続的に記録した。一回毎に筋伸張応答は、筋伸張終了時点のPeax frequency (P)、0.5秒後のStatic frequency (S)およびこれらPとSの差のDynamic Index(DI)の発射頻度を瞬時頻度検出器により検出・計測した。走行トレーニングラット群のGia線維の反応ではPおよびDIが、GII線維の応答ではP、SおよびDIが、非トレーニングのコントロールラット群に比べて有意に増大した。Gia線維のPおよびDI増加はdynamicγ運動ニューロンの賦活が明らかであるが、GII線維のP、SおよびDIの増大はstaticγ運動ニューロンの賦活を示すものの、Gia線維におけるSの増大に伴うPの減少が一例も見られなかった点は、staticγ運動ニューロン賦活を全面的に肯定することが難しいと考えられた。これらの実験結果は、トレッドミル走行トレーニングによって生じたdynamicγ運動ニューロンの賦活を示唆するものと考えられた。
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