本年は大分国際車いすマラソン大会におけるフルマラソン部門の出場者で、男性脊髄損傷対麻痺者32名を対象にレース前、レース直後、レース翌日に採血を行い、血算、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール、及びナチュラルキラー細胞活性(NKCA)等を測定した。その結果、血中ヘモグロビン、ヘマトクリット等の値は変化せず、レース中は血液濃縮が起きていないことが確認された。NKCAを高めると考えられているアドレナリンとノルアドレナリンはレース直後に上昇傾向を認め、翌日には回復した。また、NKCAに抑制的に働くと考えられているコルチゾールもレース直後に上昇し、翌日には回復した。NKCAはレース直前に比べ、レース直後に低下したが、翌日にはレース直前の値に復す傾向が判明した。以上より、激運動といえる車いすマラソンでは血液濃縮などの体液への悪影響は観察されないものの、NKCAに相反する働きを持つカテコールアミンとコルチゾールの上昇の総和の結果として、レース直後にはNKCAの低下傾向が認められ、翌日には回復する事が判明した。一般的に、脊髄損傷者は尿路及び呼吸器感染に陥りやすいと言われているため、脊髄損傷者においては車いすマラソンレースの直後には十分に感染症に陥らないような配慮が必要であると考えられた。次年度は、この結果の充実のために、コントロール研究を行う予定である。また、NKCAの低下は、我々の予想に反する結果であった。競技人口が多く、比較的障害が重度でも参加と完走が可能な車いすハーフマラソンに同様なNKCAの低下があれば、選手の健康のための対策が必要なため、次年度では車いすハーフマラソンにおける測定を計画する予定とした。
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