耐寒性の亢進には非ふるえ熱産生(NST)の亢進が重要な役割を果たしている。NSTの主要発現部位は褐色脂肪組織(BAT)であり、主な発現因子はノルアドレナリン(NA)であるが、加えて膵ホルモンのグルカゴンもNAに匹敵する発現作用を持つことが示されている。しかし、高いNST能を持つ新生仔期で、グルカゴンのNST発現作用はNAより早い時期に低下する等生体内でNST発現に果たす意義がNAとは違っているものと考えられている。本研究ではNSTの調節に果たすグルカゴンの役割と作用の機序を明らかにする為の検討をラットで行い以下の結果を得た。 1) グルカゴンの作用の抑制因子と推定されるプロラクチンを、浸透圧ミニポンプによって持続的に作用させたラット(プロラクチン投与群)では、対照群に比べBAT重量が有意に大きかった。これは細胞の脂肪含量の増加によるものと考えられる。 2) 上記ラットのBATについてNA及びグルカゴンによる酸素消費量の増加をin vitroで比較したところ、プロラクチン投与群では、基礎酸素消費が低くなっており、又グルカゴンによる酸素消費増加反応のみが抑制された。 3) 温暖馴化ラットのBATについてプロラクチン受容体発現mRNAを検定するためにPCRによるmRNAの増幅を試みたが、今回の検出法では検出出来なかった。 これらの結果は、BATでのプロラクチン受容体の存在は示されていないものの、プロラクチンが直接BATに作用してグルカゴンのNST発現作用を抑制することを示唆している。
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