研究概要 |
海馬CA1領域におけるシナプス伝達長期増強(LTP)はヒトの学習・記憶の分子基盤である。私達はこれまでに,海馬CA1のLTPにおいてカルモデュリン依存性キナーゼII(CaMキナーゼII)のCa^<2+>非依存性活性と全活性が上昇することを報告した。本研究ではLTPにおけるCaMキナーゼIIの標的蛋白質について検討した。海馬切片でLTPを誘発した後,1時間後にCA1をパンチアウトして,プロテインホスファターゼ(PP)活性を測定するとPP-1,PP-2B(カルシニューリン),PP-2Cの活性は変化することなしに,PP-2Aの活性が有意に減少していることが解った。あらかじめ,海馬切片を^<32>P_-無機燐酸で標識して,PP-2Aの抗体で免疫沈降して燐酸化反応を調べると,PP-2Aの分子量55kDaの調節サブユニットの燐酸化反応がLTP発現に伴って上昇していた。この燐酸化反応はカルモデュリン阻害剤の前処置で完全に消失した。ラット脳からPP-2Aを精製して,CaMキナーゼIIとATP存在下にインキュベートするとPP-2Aの55kDaの調節サブユニットが燐酸化され,その結果,プロテインホスファターゼ活性が低下した。これらの結果から,PP-2Aが海馬LTPにおけるCaMキナーゼIIの標的分子の一つであり,プロテインホスファターゼの活性低下はCaMキナーゼIIの恒常的な活性化のみならずAMPA型グルタミン酸受容体など,シナプス可塑性に関与する分子の燐酸化反応の持続に関与している。このことは海馬LTPの維持過程に重要であると考えられる。
|