研究概要 |
海馬CA1シナプス伝達長期増強(LTP)は入力線維の高頻度刺激によるシナプス後部でのNMDA受容体の活性化,プロテインキナーゼの活性化反応と連続的に進行して,シナプスにおいて最終的に長期の可塑的変化を引き起こす.これまでにLTPにおいてカルモデュリン依存性キナーゼII(CaMキナーゼII)が恒常的に活性化されること,シナプス前部,後部におけるCaMキナーゼIIの標的分子のいくつかを同定した.本研究ではCaMキナーゼIIの活性化型である自己燐酸化酵素を特異的に認識する抗体を用いて海馬LTPにおけるCaMキナーゼIIの活性化状態を免疫組織化学的に検討した.海馬CA1への入力線維を高頻度刺激し,15,60分後に海馬切片を固定し,免疫染色を行い活性化部位について調べた.いずれの時間においても,CA1錐体細胞の細胞体と樹状突起において有意な免疫染色性の上昇が見られた.NMDA受容体の2Bサブユニットに対する抗体と二重染色すると,活性型CaMキナーゼIIの存在部位はNMDA受容体の発現部位と一致していた.これに対して,CA3および歯状回の神経細胞では活性型CaMキナーゼIIの有意な変化はみられなかった.また,共焦点レーザー顕微鏡を用いることによってスパインでの変化も調べることができた.これらの結果は以前,報告したLTP発現に伴うCaMキナーゼIIの活性の変化と一致していた.今回,作製した活性型CaMキナーゼIIを認識する抗体を用いることによってシナプスの可塑的変化を可視化することが可能となった.現在,恐怖条件付けを行ったラットにおける海馬,扁桃核でのCaMキナーゼIIの動態についても検討を進めている.
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