アデノウイルスベクターにアミロイド前駆体蛋白質(APP)遺伝子を組み込み、ラット初代培養海馬ニューロンに感染させると、培養海馬ニューロンは3〜4日間に変性/死滅した。この変性過程では、カスペース3の一過性の活性化がおこり、その酵素阻害により細胞死は遅延した。グリア細胞では、同じ条件で細胞死が誘導されなかったが、活性酸素種の生産増大が認められた。ニューロンやグリア細胞を用いてデイファレンシャルデイスプレイ法を行ったところ、グリア細胞の実験から1クローンが得られた。部分配列解析から、これはIL-8の遺伝子であることが判明し、IL-8分子の生産量の増加も確認された。IL-8の存在下で培養したニューロンでは、APP遺伝子導入により細胞死が著明に早まる結果が得られた。APP変異体遺伝子解析から、APPによる細胞死とIL-8生産誘導活性には正の相関関係があった。また、APP代謝産物の細胞外分泌を阻害剤により抑制したところ、この場合もAPPによる細胞死が亢進することが判明した。以上、本モデル系細胞死には、APP代謝産物の細胞内蓄積が直接関わっていると考えられたが、アミロイドベータペプチドの関与は認められなかった。また、APPによりグリア細胞からのケモカイン等の生産増大がニューロン死を決定的にする役割があると推測された。それゆえ、本実験系は、弧発性アルツハイマー病の新たな側面を示しているのみならず、抗痴呆性食材の探索、抗痴呆薬の評価系、変性遺伝子探索系として、極めて有用なアルツハイマー病病態モデル系と考えられる。
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