リゾフォスファチジン酸(LPA)は平滑筋収縮作用を始めとする種々の生理作用を惹起するbioactive phospholipidとして注目されている。また、LPAはある種の細胞でストレスファイバーや接着班を形成することから、低分子量G蛋白質rhoのactivatorとして作用していることが示唆されている。平滑筋収縮はミオシン軽鎖リン酸化レベルにより制御されていることが知らされており細胞内Ca^<2+>濃度上昇とCa^<2+>感受性増加の両機構が考えられているが、活性化rhoはこのCa^<2+>感受性増加機構に介在していることが明らかになってきた。従って、LPAによる平滑筋収縮作用には一部rhoが関与している可能性が考えられる。 本研究では、モルモットより摘出した各種平滑筋標本(胸部大動脈、腸管膜動脈、盲腸紐及び回腸縦走筋)を用いて、LPAのミオシン軽鎖リン酸化及び張力に及ぼす作用を調べ、他の収縮薬の作用と比較検討した。 1)LPAは胸部大動脈、腸管膜動脈平滑筋標本では一部ミオシン軽鎖リン酸化の増加をひきおこしたが、盲腸紐や回腸縦走筋では有意な変化は認められなかった。 2)LPAは盲腸紐標本では持続的な収縮反応を惹起したが、その他の標本ではひきおこさなかった。 3)胸部大動脈、腸管膜動脈平滑筋標本におけるLPAのミオシン軽鎖リン酸化増加反応は、チロシンキナーゼ阻害薬ゲニステイン及びミオシン軽鎖リン酸化酵素阻害薬ML-9前処置により抑制された。 以上の結果、盲腸紐と胸部大動脈平滑筋では、LPAによる収縮作用とミオシン軽鎖リン酸化反応に解離がみられ、後者の反応にはチロシンキナーゼとミオシン軽鎖リン酸化酵素の関与が示唆された。
|