カルボニル還元酵素(CR)は生体内に広く分布することが知られているが、その生理的役割、調節機序については不明な点が多い。ラットでは雌雄生殖器(卵巣、精巣)にその分布が集中しており、幼若ラットでは外因性性腺刺激ホルモンおよび性腺ステロイドによりその活性・含量は共に増加するので、性腺機能との関連が密接である。本研究では胎児期および幼若期性腺CRの発現とその調節に関与する因子を検索する目的でin vivoおよびin vitroの実験を行った。 胎児期14日から生後7日までの精巣CRの変動を検討した.Westernblotの結果から胎児期14日で既にCRの発現が認められ、その発現量は胎児期18日に最大となった。さらに免疫組織化学的手法によるCRの精巣内局在性はライディヒおよびセルトリ細胞の両者で認められた。また本酵素活性も同様に胎児期18日で最大となり、出産直前の胎児期20日で急激に低下し、出産後徐々に増加し、生後7日で精巣CR活性は胎児期18日とほぼ同じレベルになった。ラットでは胎児期18〜19日に精巣内テストステロン値は最大となることが報告されているので、胎児期15日の精巣セルトリ細胞培養を行い、男性ホルモンの作用を検討した。テストステロンは10ng/mlの濃度でセルトリ細胞内CRの発現を促進したが、ジヒドロテストステロン、5α-アンドロスタンジオン、5α-アンドロスタンジオールはCRの発現に無効であった。この作用は生後16日の精巣セルトリ細胞内CRに対しても同様の結果が得られた。精巣セルトリ細胞には男性ホルモンを卵胞ホルモンへ変換するアロマターゼ活性が存在しているので、卵胞ホルモン(エストラジオール、エストロン)の作用も検討した。卵巣ホルモン(10ng/ml)は胎児期精巣セルトリ細胞内CRに対して影響を及ぼさなかったが、生後16日の精巣セルトリ細胞内CRに対してはわずかではあるが促進的作用を示した。以上の結果をまとめると、1.胎児精巣CRは出産前の18日に活性・含量共に高値を示し、その促進的調節はテストステロンが重要な役割を演じている。2.生後の精巣CRは胎児期と同様、テストステロンが主な調節因子であるが、卵胞ホルモンもこの促進的調節に関与している可能性が示唆された。
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