研究概要 |
カルボニル還元酵素(CR)はNADPH依存性の酸化還元酵素であり、組織可溶性画分に局在している。現在、CRはその一次構造から短鎖アルコール脱水素酵素群の一種として位置づけられている。ラットでは卵巣および精巣CRともに黄体形成ホルモン(LH)によりその発現は促進される。またCRはラット稍巣ではライディヒ細胞およびセルトリ細胞にその発現が認められる。胎児期におけるラット精巣CRは活性・含量ともに胎児期18日に最大となる。この胎児精巣CRの増加は胎児精巣で産生されるテストステロンの増加により引き起こされることを示した(Iazu and Fujii,1998)。今年度は脳内のCRについて酸化的ストレスおよび環境ホルモンの暴露後の発育との関連で胎児期および生後ラット脳との比較をin vivoで基礎的な検討を行った。 まず、脳内CRの性差を明らかにするために胎児期16日および生後5カ月齢雌雄ラットを用いて実験を行った。CR活性は4種のカルボニル化合物(4-nitroacetophenone,PNAP;4-nitrobenuldehyde,PNBA;menadione;4-bennzoylpyridine,4BP)を基質として還元活性を測定した。胎児期脳内CR活性の性差は認められなかったが、5カ月齢脳内CR活性は雄において有意に高く、脳内CR含量も雄で高いことが分かった。胎児期から生後1カ月齢まで脳内PNAP還元活性は検出されなかった。脳内4BP還元活性は胎児期から上昇し、生後1カ月齢で最大となり、以後低下した。他の基質に対する還元活性は胎児期から生後にかけて徐々に増加し、成熟後はほぼ一定となった。さらにラット卵巣CRに対する抗体を用いた免疫化学的(Westernblot)検討から卵巣CRと同じ分子量(33K)を持つタンパクと同時に分子量50〜60Kのタンパクが観察された。 以上の結果から、脳内CRは胎児期に既に発現し、卵巣および精巣とは異なる高分子量の酵素タンパクをも発現していることが明らかとなり、胎児期におけるストレスあるいは生体外物質の暴露によって変動する可能性が示唆された。
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