研究概要 |
本研究の第一目標である成熟マウス心筋における交感神経α刺激による陰性変時作用の機序に関しては、Na^+,Ca^<2+>-交換反応に伴う電流を確実に測定することに成功し、α刺激によりこれが促進されることをほぼ確定したが、来年度以降も引き続き検討を加える。 マウス心筋の特殊性に関する検討を、電気生理学的側面と収縮機構の面から行い、結果を論文にまとめた。その概略は次の通りである。まず活動電位波形に関しては、新生児期には活動電位持続時間が比較的長いが、成熟心筋ではプラトー相を欠く極めて持続時間の短い特徴的活動電位へと変化する。成熟期のこの特異な活動電位波形は、ICaが少ないこととItoが大きいことに起因すると考えられ、この点はラットと本質的には同一である。また、発達に伴う変化としてはICaの低下を示唆する知見が得られた。収縮特性に関しては、Ca拮抗薬は新生児心筋では活動電位短縮と張力の低下をもたらすが、成熟心筋には殆ど無効であった。逆に、筋小胞体(SR)機能を抑制するRyanodineやCPAは、活動電位80%持続時間(APD80)の短縮と収縮張力の低下をもたらすが、これらの作用は新生児心筋では小さく、成熟心筋では大きいことを見いだした。これらの結果は、収縮機構のSR-依存性が新生児では低く、発達に伴って高くなることを示唆し、質的にはラット心筋におけるものと同様の変化が起こることが明らかになった。 以上のように、電気的および収縮機構に関する変化は質的にはラットと同一であることが見いだされたが、その変化の程度はラットに比べて小さなものであった。
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