1.昨年に引き続き、成人ヒト骨格筋におけるグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)の発現を詳細に検討した。GDNFに対するポリクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色で、GDNF様免疫反応性が、すべての筋線維の細胞膜直下、細胞膜および内鞘にみられた。一部の筋細胞に著明な集積がみられ、α-bungarotoxinとの二重染色によって、この部位が神経筋接合部であることがわかった。さらに、筋内有髄神経軸索および筋紡錘でもGDNF免疫反応性がみられた。RT-PCR解析を行ったところ、骨格筋からGDNF分子が増幅されたが、運動ニューロンを含む脊髄前角細胞からは増幅されなかった。 神経筋接合部において、GDNF受容体分子の一つであるGFRα-1様免疫反応性が集積していることがわかった。以上の結果から、筋由来のGDNFが神経筋接合部にある運動ニューロン終末から受容体分子を介して取り込まれ、軸索内を逆行性に輸送されることが示唆された。 2.GDNFは標的依存性栄養因子として、重要な役割を担っている可能性が考えられたので、ヒト神経筋疾患における発現変化を検討した。抗GDNFポリクローナル抗体を用いた免疫組織染色で、さまざまな筋標本をスクリーニングした。その結果、多発性筋炎、Duchenne型筋ジストロフィー症などの疾患筋において、一部の筋線維に免疫反応性の亢進が見られた。これらの筋線維は抗胎児型ミオシン重鎮抗体との二重染色によって、再生線維であることがわかった。RT-PCR解析を行ったところ、これらの筋では正常筋で発現していた短い型のGDNF mRNAに加え、完全長型のGDNF mRNAが発現していることがわかった。 以上の結果から、GDNFが筋再生あるいは筋再生に伴う神経筋接合部の再構築に関与している可能性が示唆された。
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