研究概要 |
線虫C.エレガンスでは、RasがRaf、MEK、MAPキナーゼのカスケードを介して陰門形成を制御する。一方、哺乳動物RasにはRaf以外にもRalGDS、AF6等の標的蛋白質が存在するが、線虫では不明であった。 1,新規Ras標的蛋白質の解析:Two-Hybrid法を用いて線虫Ras結合蛋白質を検索し、RalGDS、AF6(Ce-RalGDS、Ce-AF6)だけでなく、新規標的蛋白質候補としてphospholipase C(PLC210)とGDP/GTP交換因子(Ce-Cdc25)を見出した。Ce-RalGDS、Ce-AF6と同様に、これらはRasとRap1Aには結合するが他のG蛋白質(Ral,Rho,Rac,Cdc42)には結合せず、Rasのエフェクター領域に変異を導入すると、Rasとの結合は失われた。さらに、PLC210はRasとGTP依存性に結合した。PLC210の酵素活性も確認済みであり、現在Ras依存性の活性化を検討している。一方、Ce-Cdc25は出芽酵母のCdc25変異を相補せず、Rasの標的蛋白質として他のG蛋白質に作用するという仮説と矛盾しない。PLC210とCe-Cdc25のヒトホモログと思われるcDNAを得て、現在解析中である。 2,全標的蛋白質の遺伝子破壊:PCRを用いたスクリーニングにより、標的蛋白質遺伝子にトランスポゾンTc1が挿入された変異個体をCe-RalGDS、Ce-AF6、PLC210、Ce-Cdc25について分離し、次に、Tc1の移転に伴ってその遺伝子に欠損が生じた個体を前三者について分離した。 3,遺伝子破壊による新規表現型の解析と、4,各標的蛋白質下流の遺伝学的解析:PLC210遺伝子欠損変異体はMAPキナーゼカスケードの変異体と一部共通する表現型(産卵障害、不妊)を示し、これらの表現型は、同遺伝子のトランスジェニック発現により相補された。PLC210からのシグナルがその下流で同カスケードと合流している可能性がある。一方、陰門形成は同カスケードが単独で制御しているらしく、Ce-RalGDS、Ce-AF6、PLC210のどの変異体でも陰門は正常であった。また、Rafの不活性型変異はRasの活性型変異による陰門過形成を抑制するが、上記三者のどの変異もこれを抑制しなかった。
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