研究概要 |
リポ酸転移酵素IとIIとの関係を明らかにする目的で酵素のクローニングを行い以下の成果を得た. 1)リポ酸転移酵素IとIIのN末端アミノ酸配列は,I型のN末端にさらにAsn残基が付加されていた以外はII型の配列と同一であった.II型のN末端領域のアミノ酸配列を基にオリゴヌクレオチドを合成し,これをプローブにしてbovine liver λgt10 cDNA libraryをスクリーニングしてcDNAを得た. 2)得られたcDNAは1326base pairsの長さで,1119base pairsのopen reading frameを含み,373アミノ酸より成る前駆体蛋白をコードしていた.成熟型蛋白は347アミノ酸より成り,分子量は38,903と計算され,肝臓から精製した酵素の分子量とよく一致した.またプレシーケンスのC末はAsnであり,それを含めるとIとII型のN末端アミノ酸配列は一致することになる.ウシのリポ酸転移酵素のアミノ酸配列は大腸菌のlipoate-protein ligaseの配列と35%の相同性を示した. 3)NorthernとSouthern blot analysesではそれぞれ一本のバンドを示し,リポ酸転移酵素IとIIが同一遺伝子の産物であることを示唆した. 4)組換リポ酸転移酵素IIを大腸菌BL21(DE3)pLysS中で合成し,精製した後,ウサギに免疫して抗体を得た.肝臓から精製したI型とII型は抗体との反応性において差異は見られず,I型とII型が蛋白全体に渡って類似の構造をしていることが示唆された. 5)リポ酸転移酵素I型に特異的なmRNAの存在を明らかにする目的でRT-PCR反応を行い,その生成物をクローニングして塩基配列を調べたが全てII型と同じ配列であった. 以上の結果より,リポ酸転移酵素IとIIは同一遺伝子・転写産物からの生成物であり,前駆体蛋白がミトコンドリアに移入した後のプロセシングの違いによってI型とII型が生じたものと結論された.
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