細胞において生合成された酸性加水分解酵素は、N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼ(GPT)の立体構造を認識した選択的な作用によりその糖鎖がリン酸化され、これがレセプターに結合してリソソームに輸送される。この分子認識にはリソソーム酵素のリジン残基が重要な役割を果たしていると推定されているが、具体的な認識部位の構造やリジン残基の位置などは未だ解明されていない。 我々は、分泌性の糖タンパクとして知られているウシDNaseIにもこの被認識立体構造があることを発見し、重要なリジン残基の位置を既に推定した。本年は、これらのリジン残基を部位特異的アミノ酸置換法により変異させて大腸菌に多量発現させ、精製し、基質あるいは阻害物としてGPTと反応させ、反応速度論の観点よりGPTの分子認識機構を検討した。 具体的には、27番目のアルギニンをリジンに置換したミュータントR27Kをはじめ、R27A、N74K、K117A、R27K-N74K、R27K-N74K-K117A、R27A-K50A-K124Aとワイルドタイプの合計8種のウシDNaseIを大腸菌に発現させ、イオン交換、ゲル濾過のクロマトグラフィーにより精製した。以前のデータより、R27KやN74Kはワイルドタイプと比べると著しくGPTによってリン酸化された糖鎖が増加しており、R27KやN74KがGPTの良い基質となることが判明している。しかし今回、GPTとリソソームタンパクであるユテロフェリンとの反応系に変異DNaseIを加えた場合、R27KやN74Kはワイルドタイプと同程度の活性阻害効果しか示さなかった。これらをはじめ他の実験結果より、GPTが基質を認識し反応する際、いくつかのリジン残基は、基質と酵素の結合に重要な役割を果たすだけではなく、リン酸基を転移する際にも必要であることが示唆された。
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