研究概要 |
細胞において生合成された酸性加水分解酵素は、N-アセチルグルコサミンホスホトランスフェラーゼ(GPT)の立体構造を認識した選択的な作用によりその糖鎖がリン酸化され、これがレセプターに結合してリソソームに輸送される。この分子認識にはリソソーム酵素のリジン残基が重要な役割を果たしていると推定されているが、具体的な認識部位の構造やリジン残基の位置などは未だ解明されていない。 我々は、分泌性の糖タンパクとして知られているウシDNaseIにもこの被認識立体構造があることを発見した。ウシDNase Iの27位と74位にリジン残基を挿入置換したミュータントは約79%の糖鎖がリン酸化され、本来のリソソームタンパク質の糖鎖がリン酸化されるのとほぼ同等であることを発見し(Nishikawa et al.(1997)J.Biol.Chem.272,19408-19412)、これらのリジン残基のGPT認識機構における重要性を証明した。ところが、マウスDNaseIは既に上記の位置にリジンが存在するにかかわらず約21%の糖鎖しかリン酸化されないことが判明した。そこで本研究では、部位特異的アミノ酸置換法を用いてマウスDNase Iミュータントを作成し、上記の矛盾の原因を検討した。 結果として、マウスDNaseI上には、GPTの認識を妨害する3つの阻害アミノ酸残基Val^<23>、Lys^<117>、Pro^<190>の存在が判明した。さらに、54位にTyrやPheの様な立体的にバルキーなアミノ酸が存在する方がよりよく認識されることも判明し、マウスにはこの重要な位置がGluであるためGPTの認識率がさらに低くなっていることが判明した。
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