血栓形成や動脈硬化など循環器疾患の発症との関連が注目されているプロスタサイクリン(PGI_2)とトロンボキサン(TX)A_2は、それらの合成酵素であるPGI_2合成酵素およびTX合成酵素が循環器系以外の組織でも特異的に発現しており、新たな生理作用を持つ可能性が示唆された。本研究は、これら酵素遺伝子の発現調節ならびにノックアウトマウスの解析によりPGI_2とTXA_2の産生調節機構の解明と新たな生理的役割を探ることを目的に、本年度は以下の結果を得た。(1)PGI_2合成酵素遺伝子のプロモーター領域の解析を進め、血管内皮細胞と平滑筋細胞で発現に関与する領域に特異性を見出した。(2)PGI_2合成酵素遺伝子欠損マウスは腎臓に形態変化を伴う異常を発症することを見出したが、このような腎臓で血管壁の肥厚、動脈硬化病変、組織の繊維化などが認められた。(3)血管の内膜を剥離しPGI_2合成酵素をHVJ-リポソーム法での遺伝子導入により過剰発現させたところ、その後に引き起こされる内膜平滑筋層の肥厚は有意に抑制され、in vivoでPGI_2に血管内膜平滑筋細胞の増殖抑制能が証明された。(4)作成に成功したTX合成酵素遺伝子欠損マウスは、妊娠、出産ともに正常であった。現在、表現型として止血時間の延長が観察されている。(5)各酵素遺伝子欠損マウスの戻し交配が終了し、両酵素のダブルノックアウトマウスの作成を開始した。
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