研究概要 |
イノシトールリン脂質代謝系は従来、細胞膜直下に存在する情報伝達系の一つと考えられてきたが、近年、核内でも細胞膜と同様のイノシトールリン脂質代謝系が存在していることが示唆されてきている。我々も最近、増殖に伴い核に特異的に発現してくる新たなPLCδ4のcDNAを単離することに成功した。又、核内にPtdlns(4,5)P2がヒストンに結合した状態で多量に存在していることを見い出している。本研究ではイノシトールリン脂質代謝系が核内でどの様な生理的機能を持っているかを解析することを目的として、まず第一に、PLCδ4の局在を決定していると思われるpleckstrin homology(PH)domainのin vitroでのリン脂質、イノシトールリン酸との結合性を検討した。PLCδ1のPHdomainがPtdlns(4,5)P2、lns(1,4,5)P3と結合するのに対し、PLCδ4のPH domainは、Ptdlns(4,5)P2やPtdlnsと特異的に結合したが、lns(1,4,5)P3とは結合しなかった。次に、PLCδ4の発現が血清で誘導され、細胞内カルシウムがその発現に関与していることが予想されたので、PLCδ4のマウスゲノムを単離して、そのプロモーター活性を検討した。マウスゲノムをルシフェラーゼ発現ベクターにつなぎ、種々のカルシウム動員試薬で処理した所、IGF-1、ブラジキニン等で発現が誘導されることが明らかになった。このことは、細胞内カルシウムの上昇が、PLCδ4の発現誘導に重要であることを示している。PLCδ4は核内に発現が見られるので、PLCδ4による核内でのPtdlns(4,5)P2の分解が、核内カルシウムの上昇をもたらし、CREsiteを介したfosの発現等を引き起こすと考えられ、PLCδ4の発現、PLCδ4の活性調節、そしてPLCδ4による核内カルシウム量の制御など、PLCδ4がカルシウム代謝に深く関わっていることが示唆された。
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