分泌物が開口放出により細胞外へ放出されるまでには、生成された分泌顆粒が細胞質中を運ばれ、細胞膜の近傍に位置しなければならない。膵B細胞では、開口放出よりも上流で起こる事象についてはこれまで細胞外に分泌された放出量の測定をもとに論じられることが多く、顆粒の運動やドッキングを直接定量的に捉えようとする試みは数えるほどしか報告されていなかった。本研究により開口放出上流のステップもまたインスリン分泌の重要な制御機構であることが明らかにされたのみならず、膵B細胞に特徴的な分泌制御調節機構の存在が判明した。すなわち、1)インスリン顆粒の運動は神経細胞のシナプス顆粒のように明らかな方向性を持ったものではないこと、2)インスリン顆粒のモーター蛋白はミオシンII(最近他のグループからミオシンIIAと報告された)であること、3)この顆粒の活性化はcAMPおよび細胞内遊離カルシウム(細胞外からの流入カルシウムではない)によって活性化されること、4)顆粒運動の活性化にはミオシン軽鎖リン酸化酵素によるミオシン軽鎖のリン酸化およびprotein kinase A(責任基質不明)が関わっていること、5)顆粒の細胞質内における空間的配置を決める主な細胞骨格はF-アクチンである、などである。さらに6)TPA-sensitiveなprotein kinase Cが分泌顆粒と細胞膜とのドッキングに関与していることも明らかになった。このようなインスリン分泌カスケードにおける細胞内情報伝達の分業体制が明らかにされることによって、インスリン分泌にとって最大の課題であるグルコースによるインスリンの相性分泌とtype 2糖尿病におけるその障害の解明に新たな手がかりが加えられた。
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