本研究は、酵母のミトコンドリア(ミト)形態を制御する遺伝子(mdm10)とホモロジーのある遺伝子を哺乳動物細胞において同定し、そのcDNAを単離することを第一の研究目的とした。当初、mdm10の塩基配列をもとにプライマーを作製して、ラット肝細胞から調整したmRNAをテンプレートとするRTーPCRによって、mdm10とホモロジーをもつラット肝細胞のミト形態制御遺伝子のcDNAの一部を増幅する計画を立て実行したが、貧弱な増幅産物しか得ることができず、しかもそれらの塩基配列はmdm10とのホモロジーが認められなかった。このため、当初の計画を修正し、mdm10の全長塩基配列を用いた核酸ハイブリダイゼイションによってラット肝細胞のcDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果、有為と考えられるクローンを十数個単離することに成功した。現在これらのクローンを増幅精製し、cDNAの塩基配列を同定中である。今後は、得られたクローンすべての塩基配列を同定し、mdm10とホモロジーの高いものから遺伝子導入実験を進めていく。具体的には、(1)酵母のmdm10欠損株にrat mdm10遺伝子を導入する。 (2)in vitroでヒドラジン投与により増加したフリーラジカルで巨大化したミトを内包するラット培養初代肝細胞にrat mdm10遺伝子をの導入する。(3)上記の実験で、rat mdm10遺伝子導入によりミト形態が正常化すれば、(a)rat mdm10遺伝子産物がレドックス制御を受けている、(b)rat mdm10遺伝子の発現がフリーラジカルにより抑制される、(c)rat mdm10抑制遺伝子の発現がフリーラジカルにより亢進する、のいづれかのメカニズムが想定される。この3つの可能性を検討してフリーラジカルがいかなる経路でミト形態変化を惹起するのかを最終的に明らかにする予定である。
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