研究概要 |
生物学的遺伝子導入法の一つである欠損型ヘルペスウイルスベクターは、in vivo及びin vitroでヒトを含め、広い宿主領域を持つ向神経性ウイルスベクターであり、非分裂細胞である神経細胞内において長期にわたる発現が可能と推定されている。この神経親和性である単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex Virus 1;ここではHSVと略す)に由来する欠損型非増殖性HSVベクター発現系の一般的な検討を行い、方法論的に改良、発展させることを進め、本系のプロトコールを成書にまとめた(Meth.Mol.Biol.印刷中)。更に、NMDA型グルタミン酸受容体チャネルは、2種(ε,ζ)のサブユニットファミリーにより構成され、εサブユニットの分子的多様性がその機能的多様性の基盤を担っているが、今回、ζ1サブユニットのHSVクローン(HSV/GluRζ1)を構築・解析した。すなわち、HSV/GluRζ1を感染させたRabbit skin cellについて、RT-PCR、ドットブロット及びウェスタンブロット解析により、その高い発現が確認できた。また、本HSVベクターをVero細胞に感染させ、その発現の経時的変化を96時間目までウェスタン解析により調べたところ、約125kDaの分子量のリコンビナントタンパク質が感染後、3時間目より検出され、24-48時間で最大に達していた。発現したζ1サブユニットタンパク質を分子的、機能的に解析するとともに、εサブユニットと組み合わせてin vivoでの感染実験を計画している。一方、バキュロウイルスベクター系を用いて、グルタミン酸受容体チャネルのリガンド結合部位等の分子機能の解析を更に、進めた。また、悪性グリオーマに対する遺伝子治療用ベクターの可能性も考え、インターフェロンγやインターロイキン2を発現するHSVクローンを構築し、グリオーマ細胞、ヌードマウスを用いてin vitro,in vivoで基礎的検討を進めている。たとえば、マウスγ-インターフェロン(IFN)遺伝子を組み込んだγ-IFN発現HSVベクターを作製し、このベクターのin vitroおよびin vivoにおけるマウスグリオーマRSV細胞に対する増殖抑制効果およびこのベクターを感染させたRSV細胞を用いたヌードマウス等へのex vivo腫瘍ワクチン療法とそのメカニズムについて検討した。この結果、in vitroおよびin vivoの両者においてγ-IFNの発現とRSV細胞の著明な増殖抑制効果を認め、さらにこのベクターを用いたex vivo腫瘍ワクチンとしての効果も認められ、この効果はNK活性を介するものであることが示唆された。
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