研究概要 |
神経変性疾患は特定の神経細胞群が変性,脱落することにより発症する.遺伝子の異常が見いだされているいくつかの遺伝性変性疾患を除けば,多くは原因が不明で,神経栄養因子の欠乏や未知の神経毒の関与が考えられている.これらの神経変性疾患の解明をめざした基礎的な研究を進める上でモデルとなる神経細胞株の樹立は必要不可欠である.例えば,パーキンソン病は中脳黒質から線条体に投射するドパミン神経の選択的な変性,脱落に伴うドパミン代謝異常であるが,この選択的細胞死のメカニズムを明らかにするためには黒質ドパミン神経の表現型を保持した細胞株の樹立が極めて重要である.黒質のドパミン神経は数も少なくこれを特異的に株化することは一般に困難であるが,本研究ではドパミン神経細胞特異的な遺伝子プロモーターと細胞を不死化させるための癌遺伝子の発現を組み合わせた発生工学的手法による神経細胞の株化を試みている. 平成9年度においては,当初の研究計画に沿って実験を遂行した.まず,ヒトチロシン水酸化酵素遺伝子プロモーター領域2.5kbに癌遺伝子であるSV40T抗原温度感受性変異株の遺伝子を凍結したDNA(14kb)を作製した.これをC57B6/Jマウス受精卵にマイクロインジェクションし,Tgマウスの作製を行なった.マイクロインジェクションを行なった受精卵400個を,20匹の仮親の卵管に移植したところ,49匹のマウスが誕生した.サザンブロット解析の結果,導入遺伝子の存在が確認されたのは,オス1匹,メス5匹の計6匹であった.導入遺伝子のコピー数は各々1〜30コピーであった.得られたTgマウス(F_0)6系統のうち,2系統は生後8〜10週で死亡し,系統を維持することはできなかったが,残りの4系統を現在維持しているところである.今後,SV40T抗原mRNA発現の組織特異性をin situハイブリダイゼーション等により確認した後,培養実験に移る予定である.
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