研究概要 |
ピルビン酸キナーゼ(PK)遺伝子に点突然変異を有し、溶血性貧血を発症するPk-1^<slc>マウスに対するgenetic rescueを試みるため、ヒトβグロビン遺伝子群の制御領域であるlocus control region(LCR)と赤血球(R)型PKプロモーターを用いてヒトR型PKを赤血球特異的に高発現するトランスジェニックマウスを樹立した。ヒトμ'LCR断片(3.1kb)は、米国ワシントン大学(シアトル)のG.Stamatoyannopoulos教授より供与を受けた。このμ'LCRにヒトLR型PK遺伝子の5'-flanking region(R型PKプロモーター、イントロンl-2)とR型PKcDNA(エクソン3-12)、3'-nanking regionを結合したコンストラクトをpcDNA3.1(+)にクローニングした。制限酵素SalI-NaeIで切り出される約6.5kbのDNA断片をマウス受精卵雄性前核に注入し、注入後一晩培養後、二分割した卵のみを卵管移植した。 樹立したPKトランスジェニックマウス4系統のうち3系統で、赤血球PK活性が83-122IU/gHbと対照(41.6±5.8)のそれぞれ約2倍ないし3倍の活性を示した。赤血球溶血液を用いたPKアイソザイムの解析を行ない、トランスジェニックマウス赤血球に高発現したPK活性がトランス遺伝子由来のヒトR型PKであることを確認した。一方肝臓、筋肉PK活性は対照と有意差が無かった。今回樹立したPKトランスジェニックマウスにおいては、コピー数と赤血球PK活性の相関は認められないことから、用いた遺伝子コンストラクトは挿入されたマウスゲノムの位置によってその発現量に変化が現れる、いわゆるposition effectを受けることが明らかになった。したがって,'LCRはシスに結合した遺伝子のcopy numbcr-dependent,position-independentな発現を規定するLCRとしての機能は果たさないものの、赤血球特異的エンハンサーとして機能したと考えられた。現在PKトランスジェニックマウスの造血系および赤血球代謝の詳細な検討を加えつつ、Pk-l^<slc>との交配実験を通じて溶血性貧血に対する治療効果を検討中である。
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