保護蛋白質/カテプシンA(PPCA)は、リソソーム性糖質加水分解酵素の保護機能と、一群の神経ペプチドに対し、セリンカルボキシペプチダーゼ活性を併せ持つ多機能糖蛋白質である。ガラクトシアリドーシス(GS)は、PPCAの遺伝的欠損により、これらの酵素活性の同時低下と生体内基質の蓄積を伴い、小脳失調などの中枢神経症状をはじめ、極めて多様な臨床症状を示す、ヒト常染色体劣性遺伝病である。本研究では、PPCAの触媒機能とその中枢神経系における生理的役割や病態との関連を解明する目的で研究を進め、以下の示す成果を得た。 1. PPCAのペプチド性基質の一つであるエンドセリン1(ET-1)およびその生合成の前駆体であるビッグET-1(BigET-1)に対する特異抗体、および抗PPCA抗体を用いて、GS患者由来剖検脳組織切片に対する免疫組織化学的解析を行った。小脳、海馬、脊髄などの様々な脳領域で、神経あるいはグリアなどの同一細胞において、ET-1およびBigET-1様免疫反応性が著しく増大している細胞群が検出され、これらは健常対照において、PPCA含量の高い細胞群であることが初めて明らかになった。 2. ヒトおよびマウスPPCAmRNAの翻訳開始領域に相補的なアンチセンスSオリゴDNA配列をスクリーニングし、培養細胞株への投与により、PPCAの遺伝子発現(新合成)を選択的に阻害する配列を決定した。また、マウス小脳初代培養系に投与した際に、I型アストログリア細胞において、ET-1様免疫反応性が増大することが明らかになった。 3. 生きた細胞におけるPPCA遺伝子の発現を可視化する目的で、GS患者由来培養皮膚線維芽細胞株におけるヒトPPCAと緑色蛍光蛋白質(GFP)との融合遺伝子の発現系を構築した。この系で、野生型PPCAおよび変異遺伝子を発現させることにより、遺伝子産物の異なる細胞内動態を追跡することが可能になった。
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