研究概要 |
胃の肝様腺癌は通常型胃癌と同様の腺癌を部分的に含みながら、それに加えて肝細胞癌と類似した部分をもつ原発胃癌である。本腫瘍は静脈に腫瘍塞栓を形成し芋虫状の肉眼所見を呈するほど血管親和性が高度であり、肝細胞癌に酷似する生物学的挙動を示す。このような肝様腺癌をモデルとして胃癌の分化の方向決定機序とその生物学的・臨床病理学的意義について検討を行ったのが今回の研究である。凍結新鮮材料を用いた分子生物学的検討により肝様腺癌の肝細胞性を分析した結果、アルブミンのmRNAの極めて大量の産生やAFP,transferrin mRNAの特異的な発現が示された。さらに肺に発生した肝様腺癌においてその発生に肝細胞特異的転写因子hepatocyte nuclear factor-4(HNF-4)の特異的発現が関与することが示された。HNF-4の特異的発現は胃などのその他の臓器原発の肝様腺癌では見られなかった。このため、肝様腺癌の発生には臓器特異的な発生機構が存在することが初めて示された。また胃の肝様腺癌には第4染色体長腕(D4S395)のある部分のloss of heterozygosity(LOH)が比較的多く見られ、肝細胞癌のpromotionに必要な癌抑制遺伝子の障害と共通する遺伝子変化が想定された。
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