研究概要 |
ヒト正常乳腺組織および乳腺症、繊維腺腫、乳癌におけるソマトスタチンレセプター(SSR)の局在をin situ hybridization法と免疫組織化学で検討した。また、SSRの発現とエストロゲンレセプター(ER)の発現を比較検討した。さらに、乳癌におけるSSRの発現と癌の組織型、腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無を検討した。その結果、SSRは正常乳腺の乳管上皮および良性病変に強く陽性所見を呈した。細胞膜により強く、胞体にはいくぶん弱く発現した。乳癌では60%に陽性で、乳管癌の51%、小葉癌の88%は陽性だった。SSRの発現はERの発現と相関した。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の有無はSSR2Aの発現とは相関しなかった。 正常の乳腺、非腫瘍性疾患、乳癌におけるBRCA1とグラニン(CgA,CgB)の存在の有無、およびそれらの局在を免疫組織化学法で比較検討した。BRCA1は正常乳腺上皮および乳管内癌(DCIS)の100%に浸潤癌(IDC)の88%に発現していた。グラニンは正常乳腺の乳管細胞に散在性に発現した。CgAとCgBはそれぞれ、DCISの70%、65%に、IDCの23%、39%に見られた。 以上より正常乳腺および乳癌組織において、SSR、BRCA 1とグラニンはいずれも発現しており、それらの発現頻度は異なるものの、いずれも正常に比べて癌において発現が有意に低いところから、これらは細胞の増殖抑制に関与しているものと考えられる。その機序に関してはBRCA 1がコードするアミノ酸配列1214-1223がグラニンと高い相同性を有することから、グラニンまたは、それから切り出されるペプチド(pancreastatine etc.)が、増殖因子IGF-1などを抑制する可能性が考えられる。また、グラニン陽性細胞はSSRを発現することが報告されており、SSRを介するソマトスタチンによる細胞増殖抑制作用も考えられる。
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