平成9年度に何度も試みたが、Vesicular acetylcholine transporter(VAChT)翻訳領域全長を発現するベクターは得られなかった。そこで、VAChT翻訳領域のカルボキシル基末端側の一部(58アミノ酸残基あるいは48アミノ酸残基)を発現するベクターの作成を試みることに変更した。すなわち、自ら単離したVAChT翻訳領域全長を含むゲノムクローンCos25を鋳型として、polymerase chain reactionによりカルボキシル基末端側の一部をコードする短いDNAを作成した。これをpGEX-5X-1に挿入して大腸菌をトランスフォームし、多数の組み換えDNAをスクリーニングして、ようやくVAChT DNAが正方向にインフレームで組み込まれたクローンを1個(pGEX5X1-VAChT-3)を得た。このクローンでトランスフォームした大腸菌は、pGEX-5X-1由来のグルタチオン-S-トランスフェラーゼとVAChTのカルボキシル基末端側の58アミノ酸残基との融合蛋白(分子量約36kDa)を産生した。この融合蛋白を発現誘導した大腸菌の細胞破砕液を、グルタチオン-S-トランスフェラーゼに対するアフィニティカラム(グルタチオンセファロース4B)に通して、融合蛋白をカラムに吸着させた。その後、溶出液にてグルタチオン-S-トランスフェラーゼからVAChT蛋白を切り離し、ヒトVAChT蛋白を溶出することができた。そこで、大腸菌を大量に培養して、大容量のVAChT蛋白を精製した。しかし、グルタチオンセファロース4Bを用いたアフィニティカラムで精製しても、微量ではあるが、大腸菌由来の蛋白がVAChT蛋白溶出液に混入することは避けられなかった。そこで、大量に得たVAChT蛋白溶出液を濃縮した後、さらにゲルろ過を行ってヒトVAChT淡白を精製する必要がある。最終的に、不純物が混在しないヒトVAChT蛋白を十分量得た後に、ラットに免疫する予定である。
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