研究概要 |
甲状腺腫瘍の発生・進展の背景因子として血管内皮増殖因子(VEGF)に着目し,その発現と意義について病理学的に検討した.研究材料は各種甲状腺腫瘍(濾胞腺腫,濾胞腺癌,乳頭癌,未分化癌,髄様癌)の新鮮組織(RNA抽出用)と外科材料パラフィン包埋組織を用いた.Northern Blotting法,in situ hybridization(ISH)法によるVEGFmRNAの発現を検討には,東大医科学研究所・細胞遺伝学,澁谷教授から供与されたVEGFcDNAからprobeを作成した.RT-PCR法には第また5exonと第8exonにprimerを設定した. <結果>Northern Blotting法では正常組織に比較し,腫瘍組織でVEGFmRNAの高い発現を認めた.RT-PCR法による亜型の検索では,いずれの腫瘍もVEGF_<189>,VEGF_<165>,VEGF_<121>の3種類のmRNAが検出された.抗VEGF抗体(MBL社製)を用いてVEGF蛋白を免疫組織化学的に検討すると,正常甲状腺では孤立性に陽性濾胞が認められたが,腫瘍組織では陽性細胞の割合が高く,とくに乳頭癌の乳頭状構造部と壊死巣周囲の未分化癌細胞では強い陽性所見を認めた.in situ hybridization(ISH)法により組織内のVEGFmRNAでも蛋白の局在と同様の傾向が認められた.さらに抗type IV collagenにより腫瘍組織内の血管構造を分析すると,腫瘍組織では正常甲状腺組織に比較し,血管の密度,数が増加しており,とくに乳頭癌の乳頭状構造部では,脳の多形膠芽腫に認められる"glomeruloid structure"に類似する極めて強い毛細管の集積所見が観察された. 以上の所見より,甲状腺腫瘍の血管構造は組織像と関連し,甲状腺腫瘍の生物学的特性にVEGFは関与することが強く示唆された.
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