研究概要 |
平成9年度の研究実施計画に示したように、培養ヒト食道癌細胞株を蒐集し、それらの細胞からDNAを抽出し、comparative genomic hybridization (CGH)による分子細胞遺伝学的解析を行った。その結果、染色体3q,7p,8q,13q,20q,Xqにコピー数の増加を、3p,9p,18q,にコピー数の減少をほとんどの細胞株にみとめた。このことは、食道扁平上皮癌の発生進展にこれらの部位に存在する遺伝子が深く関わっていることを意味している。一方、外科的に切除されたヒト食道扁平上皮癌においては、3qのコピー数の増加と3pのコピー数の減少が高頻度であったが、その他の変化は培養細胞株程には目立っていなかった。このことは、3qのコピー数の増加と3pのコピー数の減少は、食道癌の発生進展に深く関わっている変化であるが、その他の異常は、培養という条件において、新たに染色体遺伝子の変化が加わっており、in vitroという条件により適応できる細胞に変化するための二次的な変化であることが示唆された。これらのデータより、食道癌の発生進展に直接関わる変化の一部は明らかとなったが、臨床病理所見との対比により、生物学性状との関係についても検討を加える必要がある。今後は症例数を増やすことにより詳細な解析をおこないたい。現時点では、食道癌におけるCGH解析の報告は未だなく、この研究の意味するところは大である。
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