研究概要 |
1997年の追加症例も含め、外科的に切除されたヒト食道扁平上皮癌及び尿路系移行上皮癌のホルマリン固定材料をパラフィン包埋とし、これよりスライド切片を作製し抗p53、各種cyclin(A,D1,E)、Retinoblastoma protein(pRb)抗体を用いた免疫組織化学的検索を行い、各々の発現状況を患者の予後及びそれぞれの癌の悪性度を示唆する臨床病理学的因子との関連において統計学的に比較検討した。上記材料のうち、その一部の未固定新鮮材料を用いて凍結切片を作製し、それぞれの癌組織より個別にDNAを抽出し、これを鋳型としてp53遺伝子のExon4-9それぞれについてPCR-SSCP法を行い、異常を検出した材料においてはDirect Sequencing法を用いて、p53遺伝子の変異の有無も比較検討した。cyclin Aに関しては、遺伝子再構成及び増幅と免疫組織化学的なcyclin A蛋白過剰発現について、Southern blot法にて検討した。ヒト食道扁平上皮癌及び腎孟尿管移行上皮癌においてはp53蛋白過剰発現と遺伝子変異はそれぞれ、85%、95%以上の症例でよく相関したが、過剰発現のみ認められる症例もわずか認められp53遺伝子のExon4-9以外にも変異の存在する可能性を示唆した。患者の予後及び臨床病理学的因子との関連においては、p53と同様にcyclin A、D1、pRbいずれもこれら因子との有意な相関がみられ、特に食道癌症例では、cyclin D1の過剰発現がp53癌抑制遺伝子産物の過剰発現以上に有意に予後どの相関をみた。cyclin Aに関しては、移行上皮癌においてその過剰発現を免疫組織化学的に認める腫瘍では、癌細胞周辺の異型を示す上皮細胞においても癌細胞同様の陽性所見を呈し、cyclin A蛋白の過剰発現がいわゆる前癌病変においても認められ、癌化の初期の段階での組織学的な免疫組織化学的手法の有用性を示した。cyclin Aに関しての遺伝子再構成及び増幅と免疫組織化学的なcyclin A蛋白過剰発現については、Southernblot法にて関連を見いだせず、他のcyclin蛋白における検討も含め、腫瘍におけるこれら細胞周期を調節する蛋白の過剰発現についての検討が必要と考えた。
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