研究概要 |
外科的に切除されたヒト食道扁平上皮癌及び尿路移行上皮癌のホルマリン固定材料をパラフィン包埋とし、これよりスライド切片を作製してcyclin A,B1,D1,E抗体、cyclin dependent kinase(CDK)抗体及びp27抗体を用いた免疫組織化学的検索を行い、癌細胞周期での各々の発現状況を患者の予後及び臨床病理学的因子との関連において統計学的に比較検討した。食道癌ではcyclin A,B1,D1過剰発現をそれぞれ半数以上の症例に認め、これら患者はcyclin過剰発現を伴わない患者に比べ有意に予後不良であった。さらにcyclinD1の過剰発現はCDK4発現と相関せず、しかも逸脱症例は腫瘍の進行進展が著しく、このことは食道癌細胞が正常細胞周期から逸脱し強力に浸潤増殖を呈している可能性を示唆した。さらにはcyclin、CDKとp27蛋白発現の検討では、cyclin D1とp27過剰発現はよく相関し、p27過剰発現症例の患者はp27低発現症例の患者に比べ有意に予後不良であるという一見矛盾する結果が得られた。一方cyclin Eとp27発現は相関は得られず、食道癌での細胞周期関連因子の特徴的な発現状態及び腫瘍動態へのそれぞれの関わりを病理組織学的に提示することができた。移行上皮癌では、P53過剰発現に相関したcyclin A,E過剰発現をそれぞれ半数以上の症例に認め、これら患者はcyclin過剰発現を伴わない患者に比べ有意に予後不良であった。 ヒト膀胱癌移行上皮癌においては、同様にホルマリン固定材料よりスライド切片を作製しミスマッチ修復遺伝子産物のMSH2蛋白の発現を免疫組織化学的に検索した。MSH2蛋白発現減弱症例患者は有意に癌再発を呈しやすく、これら結果は遺伝性非腺腫性大腸癌以外の癌腫でもMSH2蛋白の発現異常を呈し、それが腫瘍動態に影響を与える事を示唆した。さらにhMSH6に関してPCRにて増幅後ダイレクトシークエンスにて遺伝子解析を施行し、p53遺伝子解析と比較した。hMSH6では3例に点突然変異を認め、p53に関しては22例にて変異を見たが、hMSH6-p53両者の同時異常は認めなかった。hMSH6遺伝子異常を伴う3例は、移行上皮癌以外の腫瘍の合併が有意に高い傾向を示したが、同時に検討した遺伝子の不安定性は示さなかった。今後は今回検討できなかった代表的なミスマッチ修復遺伝子であるhHLH1遺伝子の異常を検討し、移行上皮癌におけるミスマッチ修復遺伝子異常に基づく癌関連遺伝子の遺伝子異常につき総括を行う。
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