MDR1をはじめとする抗癌剤耐性に関わる遺伝子の発現調節機構に関する研究は殆ど行われていない。我々が樹立したヒト白血病細胞株KY-821とその抗癌剤耐性亜株では親株はTNFαで増殖抑制を受けるが、抗癌剤耐性亜株では増殖抑制を受けないことから、TNFαと関連するNF-κBやAP-1などの核内因子に異常がある可能性が高いと考えてこれらの因子の発現を検討した。この結果、親株ではTNFαで刺激後にはNF-κBの核内発現が増強するが、耐性株ではNF-κBの発現の増強は見られず、またAP-1についてはいずれにも発現増強はないことが見いだされた。しかし、耐性株の中にもTNFαに感受性があるクローンがあることがわかり、これらのクローンではやはりTNFαで刺激後には核内NF-κBの発現増強が見られた。これらの事実から、NF-κBは必ずしも抗癌剤耐性遺伝子の発現調節に関与しているのではないことが示された。また、最近報告されたYB-1についても検討したが、我々の用いた細胞株ではP-glycoproteinが発現されていてもYB-1の発現が見られなかった。一方、シスプラチン耐性卵巣癌株では、熱ショック蛋白(HSP)の発現がその耐性機構に重要であり、HSP70やHSP27は核内にも多量に見いだされ、これらの蛋白が遺伝子発現に何らかの機能を果たしている可能性もある。今後はHSPを含めその他の転写因子の発現を検討もすべきと考える。
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