本年度は、昨年度に引き続き剖検症例を中心に胸腺腫発生の初期像を検索した。成人の退縮胸腺では、胸腺上皮細胞とリンパ球の著明な減少と脂肪化がみられ、所々に索状あるいは島状になった上皮細胞巣がみられるのみとなるが、どの上皮が残存するのかまだ不明である。胸腺髄質上皮細胞に特異的に発現するといわれるPE-35を用いた免疫組織化学的検索では、退縮胸腺の上皮はほとんど陽性となり、主に髄質上皮が残存するものと思われた。また、紡錘細胞型と混合型胸腺腫でも上皮細胞がPE-35陽性となり、これらの胸腺腫は退縮胸腺残存髄質上皮より発生した可能性が示唆された。皮質型胸腺腫ではPE-35は陰性で、皮質上皮細胞も少数残存し、それが腫瘍発生母地となるのかもしれない(投稿中)。しかし、組織学的には初期像が確認できず、多分化能をもった幹細胞の存在も否定できない。さらに、MHCクラスII分子関連不変鎖エピトープに対する抗体CD74の胸腺および胸腺腫での発現を検索したところ、胸腺腫では紡錘細胞型と混合型で上皮細胞は陰性であるが、長紡錘形細胞が陽性となり、退縮胸腺上皮に類似性が認められた(投稿準備中)。また、非常に稀な型のpseudo-sarcomatous thymomaは、そのCD74発現の類似性から紡錘細胞型あるいは混合型胸腺腫の-亜型と考えられた(投稿中)。胸腺腫から胸腺癌へ進展する可能性も報告されているが、CD5の関与が示唆され、鑑別にも有用であると思われた(Am J Clin Pathol 1999)。また、針生検のような小さい切片でも免疫組織化学的な検索により、胸腺腫と胸腺癌との鑑別が可能であることを示した(肺癌1998)。 現在さらに、摘出された胸腺腫から腫瘍細胞を培養し、細胞膜に対する抗体の作製、蛋白の抽出、分析により胸腺腫の発生および重症筋無力症との関連を検索中である。
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