腫瘍産生サイトカインは腫瘍の増殖能に関与するだけでなく、様々な腫瘍随伴症候群を引き起こす。しかし、一過性に炎症性細胞からもサイトカインは産生され、腫瘍産生サイトカインとの鑑別が必要となる。今年度は、腫瘍産生サイトカインを高感度に個々の細胞レベルで捉えるために、タイラミドISH法を確立し、その方法を実際の肺癌組織に応用した。また、通常のISH法との感度の比較も行った。 材料は肺癌組織31例とIL-6mRNAの発現が知られている4種の細胞株のヌードマウス移植腫瘍で4%パラホルムアルデヒド固定・パラフィン包埋した組織。プローブは535塩基からなるジゴキシゲニン標識でcRNAプローブ。ビオチン化タイラミドやタイラミドISH法に使用する試薬は全て調製した。 結果、通常のISH法では高発現株のOCC-1で発現が認められただけであったが、タイラミドISH法では相対的に発現量が1/100であるSEKI株においても発現が検出できた。一方、肺癌組織をみると、通常のISH法では31例中8例で浸潤する炎症性細胞と1例で、その腫瘍細胞(扁平上皮癌)に散在性にIL-6の発現が認められただけであった。一方、タイラミドISH法では31例全てで何らかの細胞にIL-6の発現が認められ、腫瘍細胞に発現の認められたものは6例(扁平上皮癌3例、腺癌3例;19%)であった。通常のISH法で陽性を示した症例はタイラミドISH法でも陽性を示した。炎症性細胞でIL-6mRNAの発現が認められたのは、リンパ球、繊維芽細胞、血管内皮細胞、マクロファージ、血管の平滑筋等であった。タイラミドISH法を用いることにより、腫瘍組織内でのごく微量のサイトカインを個々の細胞レベルで捉えることが可能となった。
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