研究概要 |
この研究により、パラフィン包理組織切片でのcRNAプローブを用いたin situ hybridization(ISH)法の確立を行うことが出来た。ISH用にRnase freeの条件下で4%パラホルムアルデヒド固定・パラフィン包理してある肺癌組織31例(扁平上皮癌9例、腺癌21例、小細胞癌1例)におけるIL-6 mRNAの発現を検討した。その結果、7例にI-6mRNAの発現が認められた。この内、腫瘍産生IL-6mRNAは中分化型扁平上皮癌1例のみであり、しかもごく一部の腫瘍細胞で弱い発現が検出されただけであった。残りの6例は腺癌3例、扁平上皮癌3例で腫瘍胞巣周囲の間質成分中、特に肉芽組織を形成している部位に一致して、浸潤する線維芽細胞、マクロファージ、リンパ球、血管内皮細胞等の炎症性細胞にIL-6mRNAの発現が認められた。腫瘍細胞間に浸潤するリンパ球、マクロファージ等にはほとんど発現を認めなかった。このことにより、この6例における発現は腫瘍とは直接無関係であり、腫瘍の二次的反応に応じて一過性に発現しているものと思われた。この研究から、少なくとも腫瘍自身から産生される群と炎症性細胞を中心とした直接は関係のない群の2つがあることが明らかとなった。また、LIFの発現を見ると、主要組織で発現が認められただけであった。現在最も感度が高いと報告されているcRNAプローブを用いたISH法でも、サイトカインなどの発現量の少ないmRNAを検出するには、未だ感度の点で不十分であることも明らかとなった。 Peters et al(Am J Pathol 150:469-476,1997)を参考にin situ RT-PCR法を確立した。材料はIL-6高産生株OCC-1(口腔癌由来)、中程度産生株Yumoto(子宮頸部癌由来)、低産生株MKN-1(胃癌由来)、非産生株SEKI(悪性黒色腫由来)。その結果、in situ RT-PCR法においても反応は弱いがほとんどの細胞にシグナルが検出された。SEKI株ではシグナルは検出されなかった。OCC-1株とSEKI株を50%ずつ混合した標本ではおおよそ50%程度の細胞で陽性シグナルが得られた。我々の確立した方法を用いることにより、他の同様の方法で見られるPCR産物の流出による擬陽性がなく、高感度な発現を検出することが可能となった。通常のISH法の100倍以上の感度があることが確認された。
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