研究概要 |
小児悪性(固型)腫瘍は成人の悪性腫瘍に比し,その頻度は低い。しかしながら,本腫瘍が成熟途上の胎児性組織から発生することから,器官形成機序と腫瘍化との関連を知る上でも,極めて重要な研究対象である。本研究ではこれらの点を鑑み,染色体転座が腫瘍発生機構に決定的な要因と考えられているEwing肉腫/末梢型神経上皮腫(以下,Ewing/PNET)について,その腫瘍発生機序の分子遺伝的機序を解明するとともに,これらの解析から得られた知見を病理・病態の客観的指標とし,腫瘍群の新しい遺伝子診断を確立した。さらに,その知見を特異的な診断法のない本腫瘍の遺伝子診断に応用するため以下の解析を行った。 A.詳細な臨床的なデーターとともに集積されているEwing/PNET症例および細胞株について,既知のキメラ遺伝子EWS-FLI-1,EWS-ERGを検出するとともに,検出されなかった症例についてはEWS遺伝子とE1A-F遺伝子との間に生じる新しいキメラ遺伝子の同定にわれわれは成功した(Biochem.Biophys.Res.Commun.219:608-612,1996)。また,これらのキメラ遺伝子のtarget遺伝子を同定をクロマチン免疫沈降法を用い,成功している。 B.本腫瘍の細胞株を用いて,腫瘍の分化能および分化形質の発現とこれらキメラ遺伝子と機能の関連を明確にした。特に遺伝子情報に加えて腫瘍の組織像,治療経過,予後など病態を把握できる全てのデータを統合し,検討した。さらに腫瘍の分化形質発現(Virchow Archiv,430:41-46,1997)とキメラ遺伝子との関連を明らかにし,本腫瘍群の発生母地を決定した。
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