胞状奇胎の妊娠週令について、1967年のElston and Bagshoweの報告では、当時は全、部分奇胎の区別はされていないが、平均17週である。最近5年間の自験例では全奇胎は9週、部分奇胎は11.2週であった。25年前に比して約7週早く掻爬されている。妊娠週令が進むにつれ絨毛の水腫が進むことを考慮すると、超音波診断の導入により水腫化が十分に進まぬ状態で掻爬されていると言える。当然奇胎絨毛の径が短い症例が増加し肉眼診断基準(短径が2mm以上)の妥当性が生じる。早期(妊娠6-8週)の全奇胎では肉眼的絨毛の腫大が明らかでない症例がある。このような症例を組織学的に検討すると次のような所見が得られた。1.軽度の水腫を示す分葉状ないし八つ頭状の絨毛の出現、2.全周性のトロホブラストの増生、3.細胞成分に富む絨毛間質、4.多数の間質細胞の核崩壊像、5.迷路様の間質毛細血管またこれらの毛細血管は免疫組織学的に第8因子関連抗原やCD34には陰性のことが多く、CD31に陽性反応をしめす。全奇胎では絨毛間質の血管は欠如すると成書に記載されているが、早期全奇胎には存在する。間質血管の存在は必ずしも全奇胎の否定根拠にはならない。 早期の部分奇胎と水腫性流産の病理学的鑑別は必ずしも容易ではない。後者においては、肉眼的な腫大は稀で、組織学的な水腫の程度は絨毛により種々であり、部分奇胎で見られるtwo population villi と対照的である。また絨毛の輪郭は円形、卵円形であり、トロホブラストの増生はない。現実には両者の鑑別が極めて困難な症例がある。このような症例はフローサイトメトリーによるploidyを検索しtriploidであれば部分奇胎、diploidであれは水腫性流産と診断せざるをえない。
|