1. 目的 近年、染色体分析の導入によって、種々の骨・軟部腫瘍において特異的な染色体異常が出現することが注目され、腫瘍の診断と分類に新たな展開が期待されている。本研究では、未知の点の多い軟部腫瘍の病理学的、生物学的および細胞遺伝学的特徴を明らかにし、診断の精度向上に役立つ基礎的なデータを得ることを目的とする。 2. 研究方法 多種類の骨軟部腫瘍の新鮮手術材料から短期培養を行い、コルセミドおよび低調処理の後、カルノア液で固定し、Giemsa分染法によって染色体分析を行い、さらにその結果と病理組織診断との相関を検討した。また一部の例ではfluorescence in situ hybridization(FISH)およびRT-PCR法を併用し、染色体転座とキメラ遺伝子を検索した。 3. 結果ならびに考察 高分化脂肪肉腫および隆起性皮膚線維肉腫に余剰環状染色体を検出し、この染色体異常が低悪性度ないし良悪性の境界病変に特徴的であることを証明した。また最近われわれは前立腺の紡錘形細胞肉腫を経験し、染色体および遺伝子分析によって単相型滑膜肉腫の診断を確定することができた。前立腺の肉腫は線維肉腫、平滑筋肉腫、紡錘形細胞横紋筋肉腫などと鑑別する必要があるが、滑膜肉腫に特異的な特異的染色体転座 t(X;18)(p11.2;q11.2)とキメラ遺伝子SYT-SSX2を証明することにより確定診断された。これらの成績から染色体および遺伝子分析は軟部組織腫瘍の診断確定の手段として有用と考えられた。
|