研究概要 |
ウェルナ-症候群(成人型早老症)は,骨軟部腫瘍,悪性黒色腫,髄膜腫などの非上皮性腫瘍や甲状腺癌などを多発する癌好発症候群でもあることが,我々の研究によって明らかとなっている.またその原因遺伝子(WRN)も単離された.劣性遺伝病なので,父母からの2つのアレルの両方に異常なWRNを持たないと,Werner症候群は発症しないわけであるが,一方にのみ異常を持つ個体がどのような表現型(腫瘍も含め)を持つか,よく判っていない. 本研究では,一般の甲状腺癌および骨軟部腫瘍において,WEN遺伝子における突然変異がどの程度関与しているかを調べている.対象としている腫瘍は,Werner症候群で増加している甲状腺癌,骨軟部腫瘍である.これまでに一般の骨軟部腫瘍患者30例およびおよび甲状腺癌患者67例について,末梢血白血球を用いて,WRN遺伝子のgerm line変異(Mut1,4,6)を検討した.この3種類の変異で,全Werner症候群患者の75%を占めることが確認されている. その結果,各々で1例ずつのheterozygousな変異を見いだした.変異の種類はいずれも,我が国のWerner症候群患者の半数を占めるMut4であった.一般集団におけるWRN遺伝子変異は,数100人に1人と見積もられているので,今回の頻度が全体を代表すると仮定すると,約10〜20倍も高い.まだ1例ずつしか検出していないので確定的なことは言えないが,WRN遺伝子の一方の変異が,一般集団で甲状腺癌や骨軟部腫瘍の発生に関与している可能性が出てきた.今後は,いっそう例数を増やして検討する.
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