研究概要 |
平成9年度は大腸癌の悪性度を規定する糖転移酵素の候補分子としてムチン型糖鎖の生合成を規定するコア2β-1,6-N-アセチルグルコサミン転移酵素(C2GnT)にターゲットを絞り,大腸癌組織におけるC2GnT遺伝子の発現とその臨床病理的意義を検討した。 46例の大腸癌患者を対象に癌部と非癌部からそれぞれ生検組織を採取し,シアリルルイスa(SLa)とシアリルルイスx(SLx)は免疫組織化学的に,C2GnT mRNAは生検組織から抽出したtotal RNAよりRT-PCR法で増幅して検出した。その結果,癌細胞におけるSLaの発現率は74%で,リンパ節への転移率と正の相関性を示した。しかしながら正常粘膜でも一部の症例ではSLaが陽性であった。さらに癌組織でSLaやSLxに加えてC2GnT遺伝子を発現している症例は,それぞれ50%,61%に認められた。このようなムチン型糖鎖を発現している症例は発現していない症例に比べて有意に脈管侵襲が高かった。さらにC2GnT遺伝子自体は癌組織のみで特異的に発現しており(63%),この遺伝子を発現している症例は発現していない症例に比べて脈管侵襲のみならず進達度も有意に深い傾向にあった。 以上の結果から,ムチン型糖鎖として発現するSLa・SLxやC2GnT遺伝子は癌細胞の進展に深く関与している可能性が示唆された。平成10年以降では,大腸癌細胞におけるC2GnT遺伝子の発現をin situ hybridization法で解析する予定である。
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