研究概要 |
平成10年度は大腸癌の悪性度を規定する糖転移酵素の候補分子としてN-アセチルラクトサミンの生合成を規定するβ-1,4-ガラクトース転移酵素-I(β4GalT-I)にターゲットを絞って検討した. まず最初にヒトのβ4GalT-Iに対する特異抗体を得るため,この酵素のステム領域に相当する18個のアミノ酸(ASSQPRPGGDSSPVVDSG)からなるペプチドを合成して,家兎に免疫しポリクローナル抗体,A18Gを作製した.A18Gのβ4GalT-Iに対する特異性は,β4GalT-I cDNAを導入したCOS-1細胞のゴルジ装置や細胞膜とA18Gが特異的に結合したことで確認した. 次にA18GとN-アセチルラクトサミンに対する特異抗体,H11を用いて,大腸腺腫ら大腸癌の進展に伴うβ4GalT-IならびにN-アセチルラクトサミンの発現パターンを免疫組織化学的に解析した.その結果,β4GalT-Iの発現レベルは正常大腸粘膜ではきわめて弱いものの,大腸腺腫から大腸癌に進展するに従って明らかに増強し,またN-アセチルラクトサミンについてもほぼ同様の傾向が認められた. 以上の結果から,β4GalT-Iの発現レベルと大腸腫瘍の進展とは正の相関があり,さらに腫瘍細胞で発現するN-アセチルラクトサミンは主としてβ4GalT-Iによって規定されている可能性が示唆された.
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