正常のc-kitレセプター・チロシンキナーゼ(KIT)はSCFが結合すると細胞外ドメインで二量体を形成し自らを燐酸化することによりシグナル伝達の第一歩を踏み出す。一方、KITにはSCFの結合がなくても自らを燐酸化し活性化する″gain-of-function″突然変異が存在し、この突然変異は傍細胞膜領域型とキナーゼ領域型に大別できる。本研究は突然変異によるKITの活性化機構と活性型KITの細胞内シグナル伝達を明らかにすることを目的として行なった。傍細胞膜領域の活性型KITはSCFで刺激をしなくても構成的に細胞外ドメインで二量体を形成していた。一方、キナーゼ領域の活性型KITは細胞外ドメインを欠失させても構成的なキナーゼ活性は損なわれず、IL-3依存性細胞株をIL-3とSCFを含まない培地でも自律性に増殖するようにさせた。キナーゼ領域の活性型KITのチロシン残基をフェニルアラニンに置換してキナーゼ活性をしらべるとPI3キナーゼと会合するコドン719のチロシン残基が構成的な活性化に必須であることがわかった。またPI3キナーゼの阻害剤により正常なKITを発現する細胞では増殖は抑制されないのに対してキナーゼ領域の活性型KITを発現する細胞では増殖が抑制された。以上より、キナーゼ領域の活性型KITと正常なKITでは活性化機構ならびに細胞内シグナル伝達機構が異なると考えられた。
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