本研究は炎症の場における細胞障害とそのような炎症に際してしばしば経験される発癌率の高さを鉄とフリーラジカル、特に一酸化窒素との観点から検討することを目的とする。 5週齢の雄ddYマウスにカルボニル鉄を経口摂取することによって鉄過剰動物の作製を試みた。正常食に2.5%および5.0%のカルボニル鉄を投与して経時的に動物の体重変化を観察したところ、5.0%の鉄過剰食で投与40日にてコントロールと有意な体重差が認められた。2.5%鉄過剰食でもやや体重減少の傾向があったが、有意差は見られなかった。しかも肝臓における非ヘム鉄の沈着は著明に認められ、鉄過剰のモデル動物として研究に使用できることが確認された。したがって、以後2.5%カルボニル鉄を40日投与したマウスを鉄過剰動物として使用した。炎症の誘発は敗血症のモデルとして一般的なリボ多糖(LPS)を鉄過剰動物に腹腔内投与した。現在各種リボ多糖(LPS)が市販されており、現在その種類および投与量を検討中である。予備的実験にて、電子スピン共鳴法を用い鉄過剰マウスの炎症刺激時における一酸化窒素の動態を検討したところ、直接凍結法ではうまく検出できていない。 細胞内の鉄の制御に重要な細胞質内アコニターゼの基質であるクエン酸とイソクエン酸に関して鉄化合物を合成し、DNAの切断およびヒドロキシルラジカルの産生量を比較検討した。DNAの切断はプラスミドDNAを用いて、鉄化合物と過酸化水素の反応系にて、アガロース電気泳動を使って検討した。ヒドロキシラジカルの産生量はESRスピントラップ法にて比較した。この二つの物質は互いに位置異性体であるが、これらDNAの切断およびヒドロキシラジカルの産生量に明らかな差異が認められた。UV-Visによる検討ではこの差異が鉄錯体の構造の差に関連していることが明らかになりつつある。
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