研究概要 |
本研究の目的は、炎症時における鉄代謝の変動とともに、鉄の果たす積極的役割を一酸化窒素産生との関連において検討することである。炎症刺激動物としてリポ多糖(LPS)刺激ラットをモデルとして使用し、LPS刺激後の一酸化窒素産生とその合成酵素(iNOS)の経時的変化を追跡し、また鉄含有酵素であるアコニターゼヘの影響を観察した。またin vivoにおいてアコニターゼへの一酸化窒素の直接的作用を蛋白質化学的に検討した。 動物にはカルボニール鉄を経口投与させることによって鉄過剰症ラットを作成した。形態学的および生化学的に鉄過剰状態をチェックしたところ、肝臓、脾臓において著しい鉄過剰状態になっていた。リポ多糖(LPS)を腹腔内に一回投与し、各種臓器(脾臓、肝臓、肺、腎臓、心臓、胸腺)における炎症反応を中心とした形態学的な検討を行った。肝臓に小壊死巣を形成するものが見られ、鉄過剰群においてそれが著明であった。しかしながら、GOT,GPTなどの酵素系の異常は両群において有為の差は見られなかった。血清鉄はLPS投与後一過性に低下するが、コントロール群に比して鉄過剰群ではその低下は軽度であった。LPS投与後の誘導型の一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現を免疫組織化学およびウェスタンブロット法を用いて追跡したが、この蛋白質の発現自体にとくに差は見られなかった。血中の窒素酸化物の量は、鉄過剰群において低下傾向にあったが、電子スピン共鳴によるNO-ヘモグロビンの差は明らかではなかった。細胞質中の鉄含有酵素であるアコニターゼ活性の一酸化窒素に対する反応をin vivoにて測定した。一酸化窒素によってアコニターゼの不活化がおこるが、電子スピン共鳴法による詳細な機構は依然はっきりとはしていない。少なくとも一酸化窒素のみではなく、酸素を必要とするようである。アコニターゼの活性中心の鉄を他の遷移金属、特に銅と置換することによって反応機構がより詳細にわからないかと検討中である。
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