本研究の目的は、炎症時における鉄代謝の変動とともに、鉄の果たす積極的役割を一酸化窒素産生との関連において検討することであった。炎症刺激動物としてリポ多糖(LPS)刺激ラットをモデルとして使用し、LPS刺激後の一酸化窒素産生とその合成酵素(iNOS)の経時的変化を観察した。またin vivoにおいてアコニターゼへの一酸化窒素の直接的作用を蛋白質化学的に検討した。鉄過剰モデル・ラットの作成はカルボニール加食を経口摂取することによって作成し、鉄過剰状態は生化学的・形態学的にも確認された。この系にLPSを投与し全身的な炎症刺激を惹起した。臨床的に使用されている血清ASTおよびALTではその障害の評価に適切でなく、また鉄過剰群とコントロール群における差も認められなかった。ただし血清鉄の一時的減少が鉄過剰群とコントロール群において異なっており、鉄過剰群においてはその減少が軽度であった。誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現とそれによる血中のNOxおよびニトロシル・ヘモグロビン(NO-Hb)を測定したところ、組織のiNOSは早期に消退していくにもかかわらず血中のNOxおよびNO-HbはLPS投与後48時間においてもかなり残存していた。蛋白質の酸化的障害などでは鉄過剰ラットとコントロール・ラットとの間に有為差は認められず、形態的な壊死巣の形成頻度・大きさおよび死亡率に差が見られた。次に鉄代謝の制御に重要な役割を演じている鉄制御蛋白(IRP-1)と同じファミリーのミトコンドリア・アコニターゼに対するNOの作用を検討たところ、酸素の存在下において従来報告されているようにその活性が失活することは確認されたが、その反応機構については合成モデル錯体を用いた系にてもはっきりしなかった。方法論的なアプローチの仕方を再検討する必要があると思われた。
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